高森明勅

大嘗祭の「斎田点定の儀」を巡る逸話

高森明勅

皇室・皇統問題
2019年 5月 12日
皇位の継承に伴って伝統的に行われて来た大嘗祭。
大嘗祭では、国民が育てた稲を天皇ご自身が皇祖に供え、
自らも召し上がられる。
 
その国民の稲を献上する、悠紀(ゆき)・主基(すき)
両地方を決めるのが、斎田(さいでん)点定(てんてい)の儀。
 
斎田点定の儀では、アオウミガメ(青海亀)の甲羅を
ウワミズザグラ(上溝〔みず〕桜)で灼(や)く。
その結果、生じた甲羅のひび割れから判断する、
という占いの一種だ(亀卜〔きぼく〕)。
 
平成の大嘗祭では、肝心のアオウミガメの甲羅の入手が可能か、
不安があった。
国内の神社では鹿の骨を使った占い(鹿卜〔かぼく〕)
はあっても、亀卜の例は皆無。
国際条約で輸入が禁止
されており、
国内の都道府県の条例などで捕獲禁止の
地域もある。
 
入手には様々な“壁”が立ち塞がっていた。
八方手を尽くして、やっと小笠原の水産試験場で、
たまたま自然死したアオウミガメ2匹が発見された。
当時の関係者の安堵はいかばかりか。
 
宮内庁の職員が喜び勇んで、
上皇陛下に亀の発見を報告すると、
こうご下問になった。
 
「私の即位の為に殺したのか」と。

職員は「そうではありませんのでご安心下さい」
とお答えしたそうだ。
 
亀卜に使う亀の甲羅は、
死んで年月を経たものが適当。
だから、儀式の為に敢えて殺す事はない。
この答えに勿論、嘘はない。
 
困難を極めた亀の発見に、
とっさの場面でこのようなご下問。
いかにも上皇陛下らしいお気のなさりようではないか。
上皇陛下のお人柄を偲ばせる逸話として紹介する。