高森明勅

東日本大震災、当日の電話

高森明勅

震災・原発問題
2021年 3月 8日

東日本大震災当日の夜。
想像を絶する被害を受けた岩手県から電話を貰った。
私は同月下旬に同県での講演を予定していた。
その主催者の事務局の方だった。
およそ以下のような内容。

「こちらの勝手な都合で申し訳ありませんが、
予定していた講演は当面、延期させて戴けないでしょうか。
講演会場に使うつもりだった施設も、天井が落下して
使えなくなっています。
事務局のメンバー同士もまだ連絡が取り合えていません。
こうした状況ですので、しばらく延期させて下さい。
但し、これはあくまでも延期です。
先生のご講演は必ず行わせて戴くつもりです。
なので、こちらの準備が整い次第、改めて日程の調整を
させて下さい。宜しくお願い致します」と。

思いがけないタイミングで、丁重なお電話を戴いて、
驚き、恐縮した。
後に判明した死者・行方不明者の数は、岩手県内だけで
合わせて6千人に近い。
そんな大惨事の最中(さなか)でも、対処すべき日常業務の
一つ一つを、決して忽(ゆるが)せにせず、丁寧、確実に
処理しようされる誠実な態度に、頭が下がった。

人の真価は、いざ!という時にこそ表れる、と言う。
まさにその通りと深く感じるものがあった。
同月中・下旬には他にも都内を含め何件か、講演や
研修のスケジュールが入っていた。
しかし、さすがにここまで迅速な対応は無かった。

丁度1年後の翌年3月下旬、約束通り同県で講演を行った。
その講演では、いつも以上に熱意が籠(こも)ったのは言う迄もない。
講演の冒頭、震災当日に戴いた懇篤なお電話のことに触れた。
あの時のことは今も思い出す。

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