高森明勅

靖国神社と「戊辰戦争」(4)

高森明勅

2016年 6月 25日

『週刊ポスト』(7月1日号)によれば、共同通信配信記事の中で
靖国神社の徳川康久宮司は「
将来的に幕府軍側の人々を合祀する可能性
も否定した」という。

旧幕府軍を一概に“賊軍”と決めつけられないとすると、
靖国神社への
合祀の可能性を認めるべきなのか、否か。

これについては、以下のように考えるのが妥当だろう。

「彼らは(賊軍とは決めつけられないものの)官軍、政府の正規軍では
ない。
この点は疑う余地がない。
であれば、靖国神社の祭神(さいじん)
とされないのは、
やはりやむをえない…。

靖国神社の祭神たる要件の重要な1つは、戦争、事変、
内戦などに
際し、公的(国家的)
な職務や命令にかかわって死がもたらされた
という点にあると考え
られるからだ(幕末殉難者のみはやや事情を異
にする)」(拙稿「
何をもって靖国神社の『祭神』とすべきか」、
拙編『
日本人なら学んでおきたい靖国神社』平成23年刊)

つまり、徳川宮司のご判断は極めてまっとうと評すべきだろう。

ちなみに、西南戦争で斃(たお)れた西郷隆盛が、
賊名を除かれても
靖国神社に合祀されないのは、その決起が「
反逆」だったからではなく
西南戦争の歴史的評価については葦津珍彦『永遠の維新者』参照)
それが公的(国家的)
な職務や命令による行動ではなかったからだ。

以上、徳川宮司のご発言を巡る報道に触発されて、承知しておくべき
いくつかの先学の指摘などを紹介した。

(了)