高森明勅

天皇陛下、二十歳の御製

高森明勅

皇室・皇統問題
2019年 5月 4日

昭和55年2月23日、天皇陛下は二十歳(はたち)におなりになった。
当時は学習院大学に在学中でいらっしゃった。
この日、陛下は皇居の宮殿「春秋の間」で、
成年式に当たる「加冠(かかん)の儀」に臨まれた。
加冠の儀では、未成年の被(かぶ)り物である空頂黒サク〔巾プラス責〕
(くうちょうこくさく)が、加冠役の東宮侍従(とうぐうじじゅう)に
よって外され、成人用の冠(かんむり)が被せられる。
その時に、冠を固定する為の白い懸緒(かけお)が顎(あご)で結ばれ、
余った緒の端がハサミで「パチン」と音高らかに切り揃えられる。
この瞬間が儀式のクライマックスと言ってよい。
陛下は、この時の感慨を次のような御製(ぎょせい)に
詠(よ)んでおられる。


懸緒断(た)つ

音高らかに
響きたり
二十歳の門出(かどで)
我が前にあり

実に堂々たる詠みぶり。
既に“王者の風格”を感じさせる。
この頃は昭和時代。

だから、上皇陛下が「皇太子」でいらした。
天皇陛下はまだ皇太子にもなっておられなかった
(だから二十歳で成年式、皇太子なら18歳)。
にも拘らず、早くも将来の天皇たる御方に相応しい、
揺るぎない御覚悟と圧倒されるような御気迫が、溢れている。

ちなみに上皇后陛下はこの時、
「二月二十三日浩宮(ひろのみや=天皇陛下)の加冠の儀
とどこほりなく終りて」という詞書(ことばが)きを付けた
長歌を詠まれている。
その反歌だけを掲げておく。

音さやに

懸緒截(き)られし
子の立てば
はろけく遠し
かの如月(きさらぎ)は

いかにもお優しげな、
上皇后陛下らしいお詠みぶり。

立派に成年式を終えられた天皇陛下を前にして、
既に遠くなった20年前の、「如月」にお生まれになった
当日のことを、遥かに回想されたのだ。