高森明勅

世論はリンチ?

高森明勅

2016年 5月 31日

芥川龍之介に『侏儒の言葉』という箴言集がある。

彼が亡くなった昭和2年に書かれている。

だから今から90年程前の作品だ。

その中で輿論(よろん)について述べている。

「輿論は常に私刑であり、私刑はまた常に娯楽である。
たといピストルを用うる代りに新聞の記事を用いたとしても」と。

今なら「新聞の記事」とある箇所は、どう書けばよいのか。

だが、“輿論は私刑”という洞察そのものは、ちっとも古びていない。

と言うより、当時から既にそうした傾きがあったという事実に、
驚く人もいるだろう。

改めて、「公論」と区別されるべき、輿論なるものの本質を
見るようだ。

ちなみに現在、使われている「世論」は、輿論の言い換え語で、
本来は「せろん」と読むのに「
よろん」と誤読され、それが
定着している。