泉美木蘭

こどもはつらいよ。

泉美木蘭

2014年 10月 26日

電車に乗っていると、
若いママに手をひかれた小さな男の子が乗り込んできた。
ハロウィンの催し物にでも参加したのだろう、
赤い角の生えたカチューシャをつけて、
黒いサテン地のマントを羽織り、
小さな手には、フェルト製の手作りステッキが
握りしめられていた。

「まあ、かわいらしいわねえ・・・」
「きゃーん、かわいい♪」

乗客の注目を一身に浴びて、
あどけないスター・ちびっこデビルは、
よいしょよいしょと座席によじのぼって座った。
ママは我が子の姿にすっかりご満悦の様子。

ちびっこデビルは、そんなママを見上げると、

「・・・はぁぁ」

物憂げな溜め息をひとつつき、
ステッキを放り出してカチューシャをはずし、
「ママ、ねー、マントとって!」とせがみ、
ちいさなブーツをポポイと脱ぎ棄てると、こう言った。

「もうやらないよ。ぼく、くたびれちゃうよ。はあ・・」

肩を落としてしょげかえるその姿は、
デパートの屋上で戦隊ヒーローショーの出番を終え、
控室でマスクをはずした瞬間の中年スーツアクター、
そのものであった。

こどもはつらいよ。