高森明勅

「愛」という語の初出

高森明勅

皇室・皇統問題
2020年 5月 31日

天皇・皇后両陛下のご長女、敬宮(としのみや)愛子内親王殿下。
直系の皇族(内廷皇族)としてお生まれなので、
ご実名(愛子)とご称号(敬宮)を天皇(今の上皇陛下)から
授けられた。

選ばれた3人の学者が協議して、複数の候補を選び、
その過程で天皇・皇后両陛下(当時は皇太子・同妃)のご意向を汲みつつ、
最終的に3つに絞られた中から、慎重にお決めになった。

出典は『孟子(もうし)』(離婁章句下、りろうしょうくのげ)。
原文は以下の通り。

「仁者愛人、有礼者敬人、愛人者恒愛之、敬人者恒敬之」小林勝人氏の
訓(よ)み下し文と現代語訳を掲げる。

「仁者は人を愛し、礼ある者は人を敬す。
人を愛する者は、人恒(つね)に之(これ)を愛し、
人を敬する者は人恒に之を敬す」

「いったい仁者はひろく人を愛するし、礼ある者はよく人を尊敬する。
人を愛する者は他人もまたつねにその人を愛するし、
人を尊敬する者は他人もまたつねにその人を尊敬するものである」

敬宮殿下にお寄せになった、天皇・皇后両陛下と上皇・上皇后両陛下の
お気持ちを拝察できるだろう。
ちなみに、傍系の宮家のお子様の場合は、ご称号は無く、ご実名も
ご両親が相談して付けられる。

秋篠宮家の眞子内親王殿下・佳子内親王殿下・悠仁親王殿下の場合も同様だ。
では、わが国において「愛」という語が初めて確認できる文献は何か?
他でもない、古事記だ。

イザナキ・イザナミ2神の物語に出てくる。
2神がそれぞれ相手を讚美する場面で、互いに「あなにやし、えおとこ(男)を」
「あなにやし、えおとめ(乙女)を」と唱える。
「ああ、何と愛(いと)しい男・乙女でしょう」という意味だ。

原文では「え」に「愛」の字を当てている。
日本神話において、“愛”はイザナキ・イザナミ2神の物語を通して、
自他の相違と独自性(対立)を踏まえながら、その対立を乗り越えて、
相手を大切にしたいと思う、他者と生産的な関係を持つ為に
欠かせない心の働きとして、描かれていた
(拙著『はじめて読む「日本の神話」』など参照)。

愛をテーマにした最古の物語の中で、「愛」の字
そのものが使われていた。

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