高森明勅

トランプ米大統領誕生の背景にロシアの「影響工作」という“戦争”

高森明勅

政治・経済
2021年 4月 26日

現代の国家間の戦い(現代戦)において重要な位置を占める
「情報戦」。

その情報戦の中でも、「影響工作(IO=Influence Operation)」
が注目されているという。
影響工作が効果を示した典型的な実例は2016年のアメリカ大統領選挙。

ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンが争った。
この時、どのような事態になったか。

「ロシアはドナルド・トランプ候補を勝たせる目的で、
ヒラリー・クリントン候補に不利になる工作をツイッター(Twitter)
やフェイスブック(Facebook)などの
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)
を駆使して行いました。

…クリントン候補が人工肛門を装着しているとか、
腹心の女性スタッフと同性愛にあるとかフェイクニュースを
流し続けました。

そして、民主党本部のサーバーに侵入し、大量の情報を窃取し、

その情報をウィキリークスを通じて絶妙なタイミングで漏洩しました。
このロシアの影響工作は、明らかにクリントン候補にダメージを与え、
結果としてトランプ大統領の誕生が実現したのです」
(渡部悦和・佐々木孝博『現代戦争論ー超「超限戦」』)。

勿論、この時のトランプ前大統領の勝利を、
ロシアの影響工作だけによって説明するのは、乱暴だ。
ことさらロシアの工作が指弾されていない次の選挙でも、トランプは
(結果的に敗れたものの)多くの票を集めていた。

しかし、仕組まれた影響工作の成果を、過度に軽視しても、
真実を見誤る。
このような工作は、大統領選挙の時だけではなく、又、
工作対象国がアメリカに限る訳でもない。
その上、ロシアだけがこのような情報戦を展開しているということでは、
勿論ない。

情報戦の場合、同盟国や友好国から仕掛けられている可能性もある。
わが国の場合、特に中国によるケースを警戒しなければならないだろう。
中国の現代戦への考え方は、喬良・王湘穂の共著『超限戦』に
ストレートに表現されている。

「目的のためなら手段を選ばない…制限を加えず、あ
らゆる可能な手段を採用して目的を達成する」
「戦争以外の戦争で戦争に勝ち、戦場以外の戦場で勝利を奪い取る」と。

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