高森明勅

一瞬の幻

高森明勅

2015年 7月 20日

小雨が上がった夕暮れ。

愛犬・豆太郎と散歩に。

1人の若い女性が、道路脇に車を停め、
空に向かって携帯電話で頻りに写真を撮っている。

何事かと空を見上げるとー。

彼方の空に巨大な虹の橋が架かっている。

美しい。

しばし呆然と見とれてしまう。

視線を地上に戻すと偶然、その女性と目が合った。

彼女は微笑んで「素晴らしいですね」と声を掛けてくる。

「ええ、綺麗ですねー」。

それだけのやり取り。

その人は軽く頭を下げて車に乗り込み、静かに走り去る。

爽やかな幻のような一瞬。

それから、虹を見上げながら川の土手を歩いていると、
豆太郎が急に立ち止まる。

足を踏ん張って力み始めると、
ほかほか湯気の立つような大量のウンチ。

幻の一瞬はたちまち消え去った。