高森明勅

『卑怯者の島』に注目せよ!

高森明勅

2015年 7月 1日

以前、『わしズム』で連載していた「卑怯者の島」。

戦争のリアリティーを追及した異色作だ。

戦争「論」ではなく、戦争の“真実”に肉薄する「物語」。

けれど中断。

現役の幹部自衛官たちからも、その再開が待望されていた。

しかし一時期、復活は殆ど絶望視されていた。

私など、未完のままでも良いから、
これまでの分を纏めて単行本にして欲しい、と考えていた位だ。

あれだけの力作が埋もれてしまうのは、いかにも惜しい。

ところが、担当編集者の強い勧めもあって、
小林氏は渾身の書き下ろしを加えて完結させ、
作品は更にバージョンアップしたという。

そして、ついに発売も目前。

安保法制を巡り混乱が続く今は、日本人が真正面から「戦争」を
直視すべき最も大切な時期。

あの中断以来、最高のタイミングと言ってよいだろう。

小林氏の重要な作品が世に出るタイミングは、
何故かこういうケースがしばしば。

それが、必ずしもご本人や出版社が意図的に狙った訳ではないだけに、
何か尋常ならざるものを感じる。

『卑怯者の島』は恐らく、小林氏の一連の問題作の中でも、
独特の位置を占める作品になるだろう。

巨額の製作費を注ぎ込んだそこらの戦争映画を凌駕する、
気読み“強制”必至の入魂作。

これまで、小林作品を全く読んだことがないという人も、
これだけは手に取られることをお勧めする。

この1作で「小林よしのり」という表現者の評価を決定しても、
きっとご本人は不満には思われないはず。

連載当時の熱心な読者の1人として、敢えて不遜を顧みず、
そう申しておく。

『卑怯者の島』を見逃すな。