高森明勅

あのとき陛下にお声を…

高森明勅

2017年 4月 3日

ノンフィクション作家で
『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』
を上梓した奥野修司氏。

東日本大震災で4人の家族を亡くされたある女性が、
天皇皇后両陛下のお見舞いを振り返って、
こう語られたと雑誌で紹介している。

あのとき陛下にお声をかけてもらえなかったら
今頃私たちはこの世
にいなかったでしょうね。
陛下が来られるまで、
私たちは誰からも声をかけて
もらえなかったんです」と。

あっ!と思った。

「誰からも声をかけてもらえなかった」って。

そんな残酷なことがあるだろうか。

しかし、確かに誰も声をかけられなかっただろうなと、
言われてみて初めて気づいた。

皇后陛下でさえ、被災地へのご訪問を
「ためらひつつ」とお詠みになったくらいだ。

被災者の悲しみと苦悩が深ければ深いほど、
第三者は気後れして声をかけづらい。

しかし、悲しみと苦しさのどん底にいて、
しかも誰からも声をかけてもらえない孤独感は、いかばかりか。

陛下が長年にわたり、ごく当たり前のようになさって来たことが、
どれだけ困難で、有難く尊いことか、改めて心に刻んだ。