高森明勅

三島由紀夫の「憲法改正」批判

高森明勅

2017年 10月 7日

安倍首相の自衛隊加憲論に接して、
三島由紀夫の「憲法改正」
批判を思い出す。

「憲法上、第1章と第2章とが到底民族的自立の見地から
融和すべからざるも
のであり、この民族性の理念と似而
非(エセ)
国際主義の理念との対立矛盾がエモーショナルな
国民の目前に、
はつきり露呈されることが何より緊要である。
このことはグロテスクな誇張を敢(あえ)てすれば、
侵略戦争の宣戦布告をする天皇と、
絶対非武装平和の国際協調主義との、
対立矛盾を明示せよといふのではない。
むしろその反対である。
もし現憲法の部分的改正によつて、
第9条だけが改正されるならば、
日本は楽々と米軍事体制の好餌(
こうじ)となり、
自立はさらに失はれ、日本の歴史・伝統・
文化は、
さらに危殆に瀕するであらう。
われわれは、第1章・
第2章の対立矛盾に目を向け、
この対立矛盾を解消することによつて、
日本の国防上の権利(
第2章)を、
民族目的(第1章)に限局させようと努め、
その上で真の自立と平和主義を、
はじめて追求しうるのである」
「問題提起〔日本国憲法〕」)。

今から半世紀ほど前、既に「米軍事体制」に
より深く組み込まれてしまう事態への危機感から、
憲法改正の“やり方”次第では
「自立はさらに失はれ、日本の歴史・伝統・
文化は、
さらに危殆に瀕するであらう」と、
警鐘を鳴らしていたのだ。

その危機を、我々は眼前に見ようとしているのかも知れない。