高森明勅

上皇陛下は座って見送られた?

高森明勅

皇室・皇統問題
2019年 5月 22日

安倍首相の
「内奏(ないそう、大臣らが不定期に天皇などに報告・説明を行うこと)」
を巡り、宮内庁が「遺憾」の意を表明した。

毎日新聞は5月16日付朝刊で、
安倍氏が以下のような発言をしたと報じた。

「前の天皇陛下〔上皇陛下〕はいつも座ったままだったが、
今の陛下は部屋のドアまで送って下さって恐縮した」と。

これに対し、宮内庁の西村泰彦次長は20日の定例会見で、
次のように否定した(時事通信、5月20日、15時46分配信)。

「お座りのままお見送りしたということはあり得ない」
「上皇陛下に対して極めて非礼で尊厳を傷つける。
宮内庁として極めて遺憾だ」。

内奏は余人を交えず、1人だけで行う。

従って、この種の情報源は安倍首相本人以外には考えられない。
一方、宮内庁サイドは、よほど事実の確信がなければ、
このような公表はできない。

つまり、上皇陛下が内奏の際に“座ったまま”見送られたという事実はなかった。
でなければ、「極めて非礼」「極めて遺憾」という強い表現は出て来ない。
にも拘らず、先のような報道が行われた。

安倍氏が嘘をついたか、同氏から話を聴いた人物(官邸幹部)が嘘をついたか。
官邸関係者は「首相はそのような発言はしていない」と述べたようだ。
だが、毎日新聞が取材もしないで全く虚構の記事を書いたとは、
さすがに想像しにくい。
誰が嘘をついたのか。
安倍氏の周辺が、この種の嘘を“敢えて”つく理由も、想定しづらいのだが。

これだけ非礼な発言が報じられたのに、
安倍氏サイドから発言を否定することも、
宮内庁が“問題視”するまで、特になかった。
本当に「発言はしていない」のなら、不可解。

上皇陛下が譲位されてまだ日が経っていない。
なのに、許しがたい非礼、不敬と言わざるを得ない。