高森明勅

「研究史断片」について私見を補強する貴重な指摘が届いた

高森明勅

皇室・皇統問題
2023年 4月 12日

先日「古代律令制下における『女帝(女性天皇)』を巡る研究史断片」
という文字通りの断片的なメモを公開した。

これを読んで、少し立ち入った問題について、
興味深い指摘をして戴いた方があった。

『令集解』に書き込まれた注釈で、「女帝」が「5世王」(天皇から血縁が
5世離れて“王”の称号は名乗れても皇族〔皇親〕とはされない)や
「凡人」(庶民)と婚姻されていた場合(それは同令「王娶親王条」
に違反するが)、
その子は「凡人」とするのかどうか、という疑問が
示されている。

この事実から、もし当時、男系継承が絶対視されていれば、
(当然、問答無用で「凡人」と断定できるので)このような疑問が
浮かび上がること自体あり得なかったはずだ、という指摘だ。

その際、「断片」では言及しなかった仁藤敦史氏
『女帝の世紀―皇位継承と政争』(平成18年)と宮部香織氏
「律令法における皇位継承―女帝規定の解釈をめぐって」
(『明治聖徳記念学会紀要』復刊第46号、平成21年)にも、
関連箇所があることを紹介されていた。

これらの業績からは、かねて私も学ばせて戴いており、宮部氏の
力作論文については
拙著『「女性天皇」の成立』でも、僅かながら
触れておいた(121ページ)。

『令集解』の該当注釈についても(他の注釈と異なり史料としての
性格の見極めが
少し難しいが、宮部氏は「『令集解』成立以降の
書き入れと思〔おぼ〕しき」
という)、早くから目を止めて来たつもりだ。

しかし迂闊ながら、上記のような視点は思い付かなかった。
私見を補強する貴重な指摘に感謝する。

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