高森明勅

「カラフル」を観た

高森明勅

2010年 8月 26日

「クレヨンしんちゃん」の劇場版のシリーズで最高傑作といえば「オトナ帝国の逆襲」と「戦国大合戦」ってことに異論を挟む人は、ほとんどいないはず。

とくに「戦国」なんか実写版「バラッド」(山崎貴監督、主演は草なぎ剛)の原案にもなった。

この2作を手掛けたのが、原恵一監督。

原監督には「河童のクゥと夏休み」もある。

こちらは、知らない人がいるかも知れない。

だが日本のアニメ映画の中でも、ほとんどトップクラスの作品ではないか。

「サマーウォーズ」のような派手さはないが、どちらが長く心に残るかと言えば、私の場合、文句なく「河童」だと思う。

そこらのジブリ映画の失敗作が束になっても、かなうまい。

その原監督の新作となれば、見逃すわけにはいかない。

普通、映画館に足を運ぶ場合、ネット上の「前田有一の超映画批評」をチェックして出掛けるが、原作品ならそんな手間をかける必要もない。

ーーということで、何とか時間を作って、新宿のバルト9で「カラフル」を観てきた。

さすがに素晴らしい出来。

日常の細かな仕草、ふとした表情の変化、街角や室内の隅々にまで行き届いた視線を感じさせる。

そうした描写が有無を言わさないリアルを突き付けてくるからこそ、ストーリーに迫力と説得力が生まれる。

内容に立ち入るつもりはないが、主人公の魂が身体を借りている小林真の友人、早乙女が一つの肉マンを半分に割って二人で分ける場面で、不覚にも涙してしまった。

この作品にも、色々難癖をつける批評家はいるだろう。

声優の誰それが足を引っ張ってるとか、薄っぺらなヒューマニズムを感じさせるありふれたセリフが出てくるとか。

そんなことを言ってる方が「知識人」としては安全だろう。

だが、そうした批評をいくら積み重ねても、あの二子玉川の景色の描写を、たとえ僅かでも曇らせることは出来ない。

この作品が何を伝えたいかは、余りにも明白だ。

だが、その事をいくら言葉で連ねても、それだけでは本当に心を打つことはない。

だから、この作品が作られた。

もう一度、観たいと思っている。