小林よしのり

会いに行ける権力の罠

小林よしのり

2014年 12月 21日


わしは一旦、関係性のできた者まで、批判するから非情な人間だと

言われることがある。

人と会い、親密になり、情を通じ合わせたら、もう批判できない

という日本人の習性は、「コネ」という「世間」で生きてきた

日本人には骨がらみである。

「個人主義」が脆弱な日本人は、情を通じた関係性を壊せないから、

親交を温めたらべったりになる。

この考えは間違っているのではと思っても、口には出さない。

 

安倍首相がメディアと夜会食を行うのは、AKBの握手会と同じ

効果がある。

会って話をすること、相手から承認されること、情を通じ合わせる

こと、日本人はこれで相手への批判精神を失い、応援したくなる

ものなのだ。

わしはAKBの握手会には行かないが、メンバーからほんの少し

声をかけられたり、対談したり、会話を交わしたりしただけで、

情が芽生えて、この子を応援したいと思ってしまう。

多くのAKBファンが握手会でそう思うのだろうし、だからこそ、

この「会いに行けるアイドル」というシステムが、かつてない

強力な支持者を生み出す効果を発揮しているのだ。

 

こういう軟弱な精神は、AKBならお遊びだから罪はないが、

権力者にこの感覚を持つと、メディアや言論人としては

とんでもない堕落である。

言論人を堕落させる「会いに行ける首相」のシステムを、

安倍首相はメディア相手に利用している。

メディアとの夜会食もそうだし、フェイスブックでネトウヨに

媚びるのも、AKBシステムの悪用である。

自分に都合のいい意見を発表する者には、首相が直接、電話を

かけたりするから、言論人などはイチコロなのだ。

 

「会いに行ける権力」に利用されない「個人主義」を、

言論人は持っていなければならない。