小林よしのり

『本多猪四郎』これは傑作だった!

小林よしのり

ゴー宣道場・公論イベント
2014年 12月 5日


切通理作氏の『本多猪四郎』を読み終えた。

これはわしが保証するが、凄い本だ。

オタク世代の書き手が持つ、主観的すぎる論考を突き抜けて、

完全に普遍性のある大人の評論に到達している。

 

導入部で次々見てない怪獣映画について語られる記述では、

「またかよ、見てないからイメージ湧かねえよ」と思って

結構苦痛だったが、その先入観を第五章の本多の戦争体験から

どんどん打ち破られていく。

そして戦争体験がいかに本多の創作に関係しているかが

見えてきて、実に面白い。

「大東亜戦争」とあっさり書いてしまう理作の覚悟も見事。

 

そこから先は戦争の話でなくなっても、やはり原爆に対する

本多の感覚や、科学に対する考察などが、興味津々で楽しめる。

戦争孤児・浮浪児への差別が戦後の日本人に無邪気に存在

していたことが驚きだし、その感覚をフランケンシュタイン

に投影していたのも凄い。

iPadに入ってないか調べたが、なかったので悔しい。

 

支那における村民と日本軍の関係性もまさにこの通りだろう

と納得するし、戦争で一番損をするのは大衆という視点が、

怪獣映画の逃げ惑う大衆に繋がっているのも納得だ。

モスラが単なる蛾の幼虫ではなく、蚕だというのも嬉しくなる。

 

マンネリに対する勝新太郎の言葉も、腑に落ちた。

ここのところ『座頭市』ばっかり見ていたから、『ゴジラ』も

同じなんだろう。

わしがもう一度『新戦争論』を描く気持ちになった理由と

通じている。

誤解をただし、さらなる思考の深まりを伝えていくためには、

何度でも同じテーマに挑戦しなければならないのかもしれない。

 

『本多猪四郎』実に面白い本だった。

とりあえず『メカゴジラの逆襲』は見よう。

『マタンゴ』も見たいが、iPadに入ってないんだよな。