高森明勅

「イラクでアメリカは上手くやれる」

高森明勅

2014年 6月 16日

イラク情勢がいよいよ無茶苦茶になって来た。

イラク戦争当時のことを思い出す。

たまたま、来日中のアメリカを代表する
「日本学」
の研究者に会う機会があった。

私が「フセイン政権を倒すのは容易でも、
その後が大変ではありませんか?」と問うと、彼は自信たっぷりに、
こう答えた。

「大丈夫です。イラクでアメリカは上手くやれます。
我々には日本で成功した経験がありますから」と。

これには、さすがに呆れ果てて、二の句が継げなかった。

戦前の日本をフセイン政権下のイラクと同様、
100%「悪玉」
としか見ていないのもさることながら、
日本学者のくせに「日本」
がまるで分かっていないからだ。

占領下の日本には、
立憲君主制のもとに統合された近代的国民が存在した。

その背景には、倭国から繋がる2000年近い国家の持続と、
縄文・弥生以来の1万年を超える文化的連続性があった。

昭和天皇の卓越した求心力に依存した占領行政の「成功」を、
イラクでも期待出来ると、日本学の専門家が信じていることが、
私には信じ難かった。

アメリカには、「他者」がまるで見えていないことを、
改めて痛感させられた場面だった。