高森明勅

両陛下、「足尾鉱毒事件」ゆかりの地へ

高森明勅

2014年 6月 6日

いささか旧聞に属するが、大切なことなので取り上げる。

天皇・皇后両陛下は5月21・22両日、
栃木・
群馬両県をお訪ねになった。

マスコミはこれを「私的ご旅行」と報じていた。

しかし、皇后陛下はご持病の頚椎症性神経根症による、
左の肩から腕にかけての激しいお痛みを押しての、お出まし。

単なるプライベートな物見遊山とは、とても考えられない。

明確な目的意識、強い使命感によるご旅行と考えるべきだ。

主な目的地は、鉱害で自然が痛ましく荒廃した歴史を持つ、
足尾銅山」ゆかりの地(栃木県日光市)。

被害の爪痕が今も残る山々をご覧になり、
緑化に取り組む現地のボランティア・グループの代表者から、
ご説明をお聞きになった。

足尾の緑化について、陛下は「様子を1度、見てみたい」と
おっしゃっていたという。

我々にとって、ややもすれば大昔の出来事のようにも感じられる、
明治時代の「人と自然に巨大な被害を及ぼした公害事件」に、
かくも強くみ心を寄せておられたのだ。

そうであるなら、今、目の前にあり、被害の深刻さは更に上回る、
福島第1原発の事故による被害について、
陛下がいかばかり深くみ心を悩ましておられるか、
どんなに鈍感な者でもたやすく想像出来るだろう。

ならば、陛下が同県佐野市の郷土博物館で、足尾鉱毒事件の際、
田中正造が明治天皇に渡そうとした直訴状を、
親しくご覧になったことの意味も、慎重に拝察する必要がある。

陛下がご説明を受けられた田中正造の日記の一節には、
次のようにあったという。

「真の文明ハ山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、
人を殺さざるべし」ー