泉美木蘭

安部公房「砂の女」

泉美木蘭

日々の出来事
2019年 3月 13日

きのう夜中に目が覚めて眠れなくなってしまって、
人から借りっぱなしにしていた安部公房『砂の女』の映画版を
ぼやっと見はじめたら、素晴らしかった。
小説のほうは、以前読んですっかり圧倒されてしまって、
わざわざ古書店で函入のハードカバー版も買って、棚に並べて
いるくらいなんだけど。

朝目覚めると、裸の女が砂をかぶって彫像のようになって
眠っているという衝撃的なシーンが序盤にあるのだけど、
小説の中ではぼんやりと想像していた姿が、映画では、
裸体の岸田今日子によってザザーーンと再現されていて、
そこから一気に砂の世界に飲み込まれるようだった。

欲情を知らせる伏線が序盤から時折はさまれていて、
ずぶずぶと最初の性行為に耽溺していくシーン、
その後の逃亡を企てながら戦略的に女を抱くシーン、
部落の男たちにはやし立てられながら狂った状態で女を追い回し、
「なによ色気違いじゃあるまいし!」と拒否されるシーン、
どれも男と女の精神状態が流動していて、常に関係性が不安定
なのだけど、砂の中で同化していくという人間の複雑さが
たまらない。

見終わって、小説のほうをぱらぱらと読み直しながら、
ふと、
こういう小説は女には書けないかも……と思った。
明確にこういう理由で、とは説明できないし、
もちろんこれは「安部公房」の世界なんだけどね。
言うまでもないけど、「男女の優劣」の話でもなくて。