高森明勅

陸上自衛隊が時代錯誤の「突撃」訓練を続けるのは“平和”憲法のせい?

高森明勅

政治・経済
2021年 4月 23日

陸上自衛隊が今も、旧式の「突撃」訓練を続けている事実を
どれだけの国民が知っているだろうか。

私も二見龍氏の『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)
を読むまで知らなかった。
その時代錯誤ぶりとリアリティーの欠如に驚く。
一方、市街地を予想した戦闘訓練は、一時期だけ取り組んだものの、
その後は行われていないとか。
二見氏は同著の後書きに、次のようなエピソードを載せておられる。

「私が、第40普通科連隊長の職務を離れ、
栃木県地方協力本部(栃木地本)へ異動になったときのことです。
…90歳を過ぎて引退している(病院を経営されていた)
元軍医の方が会いたいと言っているという連絡が入りました。
私に伝えたい事があるというのです。
…当時陸軍中尉だったと仰るその元軍医の方が口を開きました。

『今でも自衛隊は突撃を教えているのですか?』
本書でも触れたように、いまだに砲迫火力と対機甲火力で
十分に敵を制圧後、普通科(歩兵)が突入して地域を
確保することを教育し、訓練が行われていることを説明すると、
驚いた表情で『まだ、突撃は残っているのですか』と
呟かれたのです。

『旧軍では、火力を使用した攻撃を教えており、
むやみに突っ込むような突撃を教えていません。
突撃などをするようになったのは戦況が悪化し、
武器・弾薬が欠乏してきたからです。
誤解されています。
突撃をすると多くの兵士の命が失われるだけです』

その方は続けて、
『自衛隊は火力戦を基本としてください。
突撃をさせないでください。これが本日伝えたい内容でした』
…1週間後…その方が亡くなられたという連絡を受けました。
旧軍の時に経験した『突撃の悲惨さ』をいつか、
自衛隊の幹部に伝えなければという長年の思いを果たし、
旅立たれたのだなと感じました。

部隊では、今でも突撃の要領を教え、訓練をしています。
『突撃に進め』という号令を聞くと、私の脳裏には
その元軍医の言葉が甦るのです」

敵の陣地の手前で、施設部隊が(実戦なら多くの犠牲を払いながら)
地雷を取り除いた、地雷原の中の狭い(安全なはずの)空間を、
1列(!)縦隊で全速力で駆け抜け、地雷原が無くなった“らしい”地点
(施設部隊が予め目印の杭を打ち込むというが、
実戦でそれが可能かは大いに疑問)で、今度は横に展開。

敵への射撃を行った後、登り斜面50~100メール先の陣地に突入し、
敵を倒してそこを奪取する。
…という訓練らしい。
もし実戦なら、その間に、どれだけ多くの自衛官の生命が奪われるか。
素人でもたやすく想像できる。

日露戦争から大東亜戦争に掛けての実戦を参考に、
こうした手順が「教範(教科書)」に書かれていると言う。
「ハイブリッド戦争」とか「超限戦」(更に“超「超限戦」”)
の時代と言われる現代に、旧軍すら戦況悪化まで避けていたという
“消耗戦”型の戦い方を、教科書に載せ、正規の訓練として
延々と続けている事実を、どう理解すればよいか。
“一人前”の「軍隊」としてのリアリズムが僅かでもあれば、
このような状態が放置されることは、よもやあるまい。

「戦力」未満の“非”軍隊ならではの現象と言うべきか。
“戦力不保持”を強制する「平和」憲法の下でこそ、
自衛官の生命を粗末に扱う戦闘を自明視する、
不合理なアナクロニズムが許されるのだとすれば、
まことに皮肉な事実と言う他ない。

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