高森明勅

「雑草という草はない」昭和天皇へのご内奏の一コマを振り返る

高森明勅

皇室・皇統問題
2023年 5月 8日

昭和時代に、田村元(はじめ)・元衆院議長が閣僚として
ご内奏の際に、昭和天皇がおっしゃられた印象深いおことばを
紹介する(岩見隆夫氏『陛下の御質問―昭和天皇と戦後政治』)。 

「三木(武夫)政権で安倍晋太郎(故人・元自民党幹事長)が
農相〔農林大臣〕をつとめた時だが、昭和天皇のご旅行先で、
案内役に立った安倍が、『ここから先は雑草です』とご説明すると、
天皇は、『雑草という草はない』と異議をはさまれた。
その話が政界に広がり、のちに田村〔元〕が運輸相〔運輸大臣〕で
内奏した折に持ち出して、『感動しました』と言うと、
天皇はこう述べられた。

『そんなに感動されても恥ずかしいのだけども、ただ、雑草というのは
人間のエゴからつけている呼び名である。かわいそうだよね。
猛獣という言葉もあるけど、ライオンやトラから見たら、
一番の猛獣はあるいは人間かもしれないね』

さらに、次のようなやりとりも田村から。

〔田村氏が申し上げる〕『私は切り花が嫌いでございます。
ハンティングもそうです。
生活のためなら仕方がないでしょうけれども、
興味本位で殺すということは、
釣りでも嫌いでございます』

〔昭和天皇のお答え〕『いまのは私のコメントはしないでおこう。
釣りもハンティングもそれぞれにみなマニアがおることだし、
切り花も各流派があって、その人たちに悪いからね。
いまは田村に相づちを打たないでおこう』」

何とも味わいの深いやり取りではあるまいか。
昭和天皇のお答えには、一般的には無自覚に受け入れられている
人間中心主義を冷静に相対化する視点と、「国民統合の象徴」としての
ご自覚の深さを拝することができる。

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