高森明勅

一夫一婦制が成立したのは「育児」の必要性によるという仮説

高森明勅

皇室・皇統問題
2023年 9月 25日

 

一夫一婦制の源流は遠く約400〜500万年前にまで遡るという
興味深い仮説が示されている(牛窪恵氏『恋愛結婚の終焉』
光文社新書)。

「オス(夫)がみずからの遺伝子を数多く
後世に残そうとするなら…あちこちのメスのご機嫌を取って
繁殖行為に持ち込み、精子をバラ撒くほうが効率的なはずです。
現実にも、チンパンジーは『乱婚』、ゴリラは『一夫多妻』の
類人猿として知られています」

「ではなぜ、またいつ、特定の妻(メス)と子に食べ物を運ぶなど、
『一夫一婦』に近い関係性が築かれていったのでしょうか。
針山(孝彦·浜松医科大学)教授は、…『アルディピテクス·ラミダス…』
(約400〜500万年前)の辺りではないかと見ています。

なぜなら、残された彼らの『犬歯』を見ると、他の霊長類に比べて、
とても小さくなっており、その歯にオスとメスの区別がほとんど
見られないから。…

もしオスが、繁殖行為のたびにメスを巡って争う社会であれば、
オスの犬歯は類人猿のように尖ったままで、メスと明確に
区別できるはずである。
ところがそうでないということは、少なくともアルディピテクス
の時代は、メスを奪い合うのではなく、特定のオスとメスが
パートナーになる『一夫一婦』かそれに近いような、
一定の決まりをもった平和的な関係性を築いていたのではないか」

「『日常的に争う社会では、心身ともに疲弊します。
また、当時は“資源配分”の点からも、乱雑な一夫多妻などの
システムを続けていくのが厳しかったのではないでしょうか』(針山氏)

すなわち、原始時代は現代のような『貨幣経済』の社会ではなく、
もしあちこちに妻やわが子が分散していれば、都度そこに
食料を運ばなければならなかった。
それはオス(夫)にとって多大なパワーを消費する、
非合理的な作業だったに違いない、といいます」

「総合研究大学院大学·元学長で人類学者の
長谷川眞理子氏によれば、ヒト以外の哺乳類で『一夫一婦』が
見られにくい理由は『多くがメスの胎内で子を育て、
出産後もメスだけで物事が解決するため、オスが何かをする
必要性が生じない』からだ、とのこと。ゆえにオスは
パートナーを特定せず、育児に協力するケースも少ないといいます」

「そうだとすれば、原始時代における『一夫一婦』の配偶関係は、
できるだけ多くのパートナーに遺伝子をばらまこうとする
権力欲や性的欲求より、特定のパートナーと大切な(限られた)
子を共に着実に育てたいとする欲求(育児)から
生まれたものである、とは考えられないでしょうか」

確かに少なくとも「原始時代」において、一夫一婦制を支える
合理的·客観的な根拠は、「育児」の必要性という重大な
ファクターを除くと、以外と薄弱かも知れない。
一夫一婦制の由来の古さを示す1つの仮説的な見通しとして紹介した。

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