高森明勅

「桑原、桑原」について

高森明勅

2015年 9月 1日

先にブログで「桑原、桑原」という言葉を遣った。

ところが、ピンとこない人もいるらしい。

まさか、もはや死語になっているのか?
と不安になり、手近の辞書を捲ると、ちゃんと出てくる。

くわばら(桑原) 落雷を避けるためにとなえるまじないのことば。
また、
いやなことや不吉なことをさけるためにとなえるまじないの
ことば

ふつう『くわばら、くわばら』と2度続けていう」
明鏡国語辞典 第2版)と。

でも、なぜ「桑原」がそんな“まじない”の言葉として遣われるのか。

江戸時代の小野高尚『夏山雑談』(寛保元年=1741年)には、
こんな解説がある。

桑原は元、菅原氏の所領で、平安時代の延長年間に、
内裏に菅原道真の怨霊の祟りによる落雷があって、
貴族らが死傷する惨事があった時や、その後、度々、
雷が落ちた時にも、この地には一切、雷の災いがなかった。

コレニ因(ヨリ)テ、京中ノ児女子、いかずちノ鳴ル時ハ、
桑原、
桑原ト云ヒテ呪シケルトナリ」と。

これは勿論、俗説だが。

その源流を
「桑を聖樹とする中国の極めて古い信仰」
に由来すると見る、
文化史的研究もある(石田英一郎「桑原考」)

その当否はともかく、この言葉がかなり古くからあったのは、
謡曲の「道成寺」
室町時代の能役者、観世信光〈1434年から1516年〉の作か)
などに、既に見えている事実からも分かる。

その古い言葉を、私などは今も、
殆ど無意識に口にすることがある。

最近の若い世代の人たちはどうなのか。

私がどんな時に口にするか、って?

そんなこと、家内の手前、言える訳がない。
って、
言っちゃったか。

桑原、桑原。