切通理作

私の出す次の本

切通理作

2015年 7月 28日

2日のゴー宣道場を前にして、
今日ははちょっと自分の話をします。

 

既に「ゴー宣ネット道場」読者の中でも情報得ている方がいらっしゃるかもしれませんが、
私の次の本は特撮でもなく、映画が対象でもなく、
長崎で被爆した母との対談集『85歳の被爆者 歴史を消さないために』になりました。

 

私はもともと、映像作品にアプローチした本を出したら、
その次はジャンルにとらわれず社会時評も含んだクロスオーバー的な評論集を出す……という順番で、
執筆活動が偏らないようにしてきました。

四角い画面のフレームと重ねることでかえって見えてくる真実もあれば、
やはりフレームを外さないと見えない現実もあると思うからです。

 

それが今年特撮関係で、僕にとって20年越しと7年越しの企画の実現や、
処女作の22年ぶりの増補復刻が重なり、
そろそろ「フレームを外した現実」にも立ち戻らなければ……と考えていたところです。

 

しかし、テーマを限らない社会時評の本を自己満足的に出すというのが、
いま本当に求められていることなのかどうか。

失礼ながら、世代の近い同業者がここ数年出したオピニオン的な本を読んでも、
彼らが90年代に出てきた時のような「現実に刺さる実感」に乏しい気がしてならないのです。

 

「世の中こう見える」という提案が、若く新しい世代の感性としてもてはやされる時期も、せいぜいが十年。

 

もっと根源的に、己の立ち位置含めて検証しなければならない時期に来ているのではないか。

 

小林よしのりさんは新たな『戦争論』をスタートさせ、『卑怯者の島』を書き、
笹幸恵さんは沖縄戦を戦った二十代の若者の行動を追った本を出しました。


その仕事は、現在を生きる私たちにズブッと刺さってきます。

 

私は逆に、徴兵はされなかったけれど、戦争の時代を生きた庶民にとっての現実はなんだったのか、
自分が生まれるまでの地続きな感覚として、検証してみようと思いました。

 

山田洋次監督の『小さいおうち』で、妻夫木聡演じる孫と、倍賞千恵子演じる祖母が、
戦争中の認識をめぐって、話が噛み合わないという場面がありました。
祖母の書いた手記に「戦争中はもっと暗かったはずだ」「一億総動員の時代だったはず」といちいち「ダメ出し」をします。

 

実は孫の方が、いつのまにか固定化された「戦前はこうであるはず」というフレームの中でものを見ていたのです。

 

しかし、妻夫木聡の役に対して「こいつ、いかにも戦後の若者って感じで、わかってないなあ」と思っていた僕自身、
母と改めて対話してみると、戦中戦後の事実もさることながら、
ひとつひとつのつながり方に発見があったり、歪めて理解している事に気付かされている毎日です。

 

映画『小さいおうち』で、倍賞千恵子演じるタキおばあさんは、中島京子の原作では、
昭和の暮らし辞典的な、お料理レシピの著者として、何冊か本を出しているという設定になっています。

 

そんな彼女が、お料理レシピから離れて、戦中戦後の暮らしを等身大に描いた本を書こうという意志を示した時、
それまでの担当編集者は急に興味を失い、冷淡になります。


そして個人的に書き始めた手記を読んでくれた孫からも、ダメ出しをされるのです。

 

今回、母の言葉を聞きとるこの本も、いまの商業出版の実情で、おいそれと右から左に出せる企画ではありません。

 

そこで私は、初めて「クラウドファンディング」で本を出す事を呼び掛けるという形を取りました。

 


クラウドファンディングというのは、賛同者から「前払い」で資金を集めて本にしようという方法です。

ですからまだ目次しかありません。けれどもし興味を持って下さったら、下にリンクした文を読んで下されば幸いです。

 
http://osu.pw/adcc 

クラウドファンディングという形式がベストかどうかはわかりません。


書籍にせよ、それそのものが存在して、買うかどうかを決めるのが、商業主義の中での健全なあり方でしょう。

 

しかし、出版社の定めた告知解禁以降にバーッと情報出して、バーッと売るというのは、
本来大宣伝が打てる大出版社の本に合っているやり方であり、
それ以外の本は、出版点数の穴埋めと化している現状もあるのではないかと思います。

 

事前に呼びかけさせて頂く方が向いている本もあるのではないかと考え、
出版社さんにも理解頂き、試金石とすることになりました。

 

こんな形の「先物買い」に関心を持って下さる方がいらっしゃれば個人的に嬉しいです。