高森明勅

ゴー宣道場ジャック成功

高森明勅

2015年 6月 15日

第48回ゴー宣道場は異色の企画。

哲学者の東浩紀氏をゲスト兼司会とし、
社会学者の宮台真司氏を特別ゲストに招いて、
「ゲンロンカフェ」
による道場“ジャック”という趣向。

小林よしのりさんのアイディア力には感服する。

だが正直に言えば、壮大な“空振り”に終わるかも、
という懸念があった。

しかし、それも杞憂だった。

第1部の司会を務めた東氏の議論の捌き方は見事。

宮台氏も、ずっと以前に「朝まで生テレビ」に
一緒に出演した時に比べて、
遥かに成熟されていた。

参加した皆さんも楽しんで頂けたと思う。

回収したアンケートからその熱気が伝わってくる。

ゲストのお2人も、控え室で参加者の真面目さ、
熱心さにしきりに感心されていた。

控え室では、お2人の人柄に好感を覚える場面がしばしばあった。

「“よしりん”と呼べばいいんですか?」とか尋ねて、
よしりんさん」とか律儀に呼び掛けていたり。

議論の中で私なりに印象に残ったのは、
切通理作さんがお2人に真正面から「国家の行方」を問うた場面。

宮台氏はオーソドックスに、
僅か数百年しか歴史を持たない近代国家が今、
どんどんその存在感を縮小している事実を取り上げ、
この趨勢はこれからも止まらないーとの見通しを示された。

型通りと言えばその通り。

だが、あれだけコンパクトかつ明瞭に説明してみせるのは、
容易ではあるまい。

更に、東氏が宮台氏の一般論から一歩踏み込んで、
世界の各地域における近代国家の存在形態を区分けされたのは、
聞き応えがあった。

複数の語族が一ヵ所に集中する例外的な場所が地球上に3つあり、
北東アジアはその1つ。

語族の違いは長い歴史を背景にしているので、
こうした地域の国家の行方については、
他の地域と一律には論じられない、という見方。

わが意を得たりと思ったので、
お呼びでないのに私のフィールドから補強材料を1つ、
提供させて頂いた。

縄文土器が壱岐・対馬からは出土しているのに
目の前の朝鮮半島から出土しない。

これは、言語が違っていたからと考えられている、と。

だが最も注目すべきは、小林さんの発言。

わが国は昭和20年までは近代国家だった。

だが、今はそうではない。

もう1度、近代国家になるのが先決。

という趣旨だった。

これぞ、国家を巡る何より切実な、主体的かつ実践的な回答。

今回の道場の「結論」と言ってよい発言ではないか。

今回は“ジャック”なのでなるべく発言を控えた。

どうしても発言しなければならない場面以外は、
まとまった意見を述べなかった。

意見を述べる際も、どこまで踏み込むか、
率直に言って些か躊躇いもあった。

だが結果的には、様々な示唆に溢れ、
面白く充実した道場になったと思う。

大成功だろう。

小林さんのプロデューサーとしての手腕が冴え渡った回になった。

ご登場頂いたお2人には改めて感謝したい。

なお、道場で話題になったドイツのヴァイツゼッカー大統領の演説に
興味
を持たれた方は、西尾幹二氏『異なる悲劇 日本とドイツ』などを
参照されたい。

道場後の打ち上げでは、次回道場のプランの話が出た。

ここだけの話、今回よりもっと凄くなりそうな予感。