高森明勅

映画「アメリカン・スナイパー」の排外主義

高森明勅

2015年 2月 15日
『ニューズウィーク日本版』最新号(2月17日号)に
クリント・
イーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」
映画評が載っている(デーナ・スティーブンズ執筆)。

アメリカではイラク戦争とアフガニスタン戦争を批判的に扱った映
画は
ヒットしないという。

9・11テロ後の
米軍の侵攻とその人的代償について鋭い問いを突きつけた」
ような作品(キンバリー・ピアーズ監督「ストップ・ロスー戦火の
逃亡者」ほか)は、軒並み「がらがら」だとか。

ところが、イラク戦争に4回も従軍し、160人以上の“
殺戮記録”を
持つ伝説の狙撃兵、クリス・
カイルの回想録を元にしたこの作品は
大ヒット。

しかもツィッターやメディアで、あのマイケル・
ムーア監督や
ジェーン・フォンダも巻き込み、
戦争賛美か反戦かを巡って、
激しい論争を惹き起こしたようだ。

実際にカイルに警護してもらった経験がある元アラスカ州知事の
ラ・ペイリンなどは、フェイスブックで
ハリウッドの左翼どもにはクリス・カイルの軍靴を磨く資格
もない!」などと吠えているとか。

だがそれはともかく、文中、次の一節が目に止まった。

「(映画での)イラク人の登場人物の扱いには抵抗を感じた。
テロを起こしかねない『向こう側の連中』としてひとまとめに
扱われているからだ。
根深い排外主義はイーストウッド作品にありがちなだけでなく、
中東を舞台にしたハリウッド映画にはほぼ例外なく見られる
言うまでもなく、この映画がその精神を受け継いでいる西部劇には、
先住民への根深い偏見がある)」と。

アメリカでこの種の映画が大ヒットする為には、まずこうした
排外主義」や「偏見」に立脚している必要があるのだろうか。