高森明勅

護憲と立憲主義

高森明勅

2015年 12月 22日

『文藝春秋』1月号に小泉純一郎元首相のインタビュー記事が
載っている。

その中で、安保法制への野党の反対について、こう批判している。

「素直に憲法読めば自衛隊は違憲ですよ。
『護憲』
と叫ぶんだったら自衛隊を廃止、あるいは、改憲して
自衛隊を軍隊にする。

そうしないで、どうして野党を『護憲勢力』と呼ぶの」と。

この発言では、護憲と立憲主義の区別がついていない。

とにかく憲法(特に9条)を“神聖不可侵”な存在として、信仰的に
崇め奉るのがいわゆる護憲。

だから一字一句、変えることはまかりならん、となる。

これに対し立憲主義は、憲法によって国家権力を制限する仕組みを
大切にする立場。

この立場では、無理な条文はむしろ速やかに改正してこそ、
憲法の権威と実効性を保持できると考える。

両者はまるで違う。

でも、小泉氏の言いたいことは分かる。

条文自体については、物神崇拝的な硬直ぶりの一方、肝心の解釈と
運用については、
政治的にかなりいい加減な護憲勢力の急所を、
うまく衝いている。

立憲主義を掲げるなら、
(1)自衛隊を合憲と公然と認めるか、
2)違憲だから廃止しろとストレートに訴えるか、
(3)
改憲して自衛隊の位置付けをちゃんとさせるか、
それらのどの立場かを明確にする必要がある。

じゃないと、
憲法自体の権威と実効性をないがしろにすることになる。

そこを誤魔化して安保法制だけを批判しても、
少なくとも立憲主義
という観点からは、全く説得力がない。

ところが近頃、「護憲」ブランドの凋落と共に、
護憲を立憲主義と言いくるめようとする、怪しげな動きがある。

要注意。