高森明勅

『葉隠』の一節

高森明勅

2017年 9月 9日

三島由紀夫が愛読していた『葉隠(はがくれ)』。

武士道といふは死ぬ事と見附けたり」
という言葉が有名だ。

一方、人生の機微にわたる細々とした心得も記している。

例えばー 「ある者の昇進の審議があったとき、
以前大酒を飲んで乱れたことがあったのを理由に、
昇進させるべきでないことに衆議が一決しようとした。
そのとき、
その場にいた1人が次のように言ったものである。
1度くらい過ちがあったといってその人を見捨てるようでは、
人物は育つまい。
1度過ちを犯した者はその過ちを後悔するものであり、
かえってよく己れを慎んでお役に立つものである。
昇進させてよろしいではないか』

そこで、別の1人が、
貴殿が責任を持つと言われるか』と言った。

『確かに、拙者が保証人となってよろしい』と答えた。

そのとき、他の人たちが、
『どのような理由で保証されるのか』
と言ったところ、
『1度過ちがあった者であるから、
保証人になったのである。

1度も過ちのない者は、
これからどんな過ちをするか、
かえって危険な気がいたす』
と言われたので、
その者は昇進を認められたということである」
と。

勿論、「過ちを後悔」も
反省もしないような者は論外だろう。