多大なる期待の込められた「ネタ」を手渡されてしまったの。
「なんとえらいこっちゃ、クリスタル」
「木蘭さんなら、きっと、気に入っていただけると思います」
ニタニタと変な自信を帯びた笑顔でそう言うので、首をかしげた。
設営隊として奔走された好青年で、かなり常識をわきまえている元坂口さんが、
いきなり『気に入っていただける』と笑顔で断言するって、どういうことやろ?
中身は、箱に梱包されている。この異様な荷物……あやしい。
◇ ◇ ◇
ひとまず椅子の上に荷物を置くと、紙袋のバランスが崩れ、こちらへ倒れてくる。
「ありゃりゃ、あぶないあぶない!」
倒壊を防ごうと、あわてて、手ではなく足を出したところ、バターン!
2kgの重みに遠心力が加わって、突き出した右膝がしらを思いっきり強打。
いてぇ! な、なんやねん、もうこれ!
開けてみる。

と、刻まれたクリスタル楯。
ザ・神様! キャラクターグランプリ。
毎回、1年間の連載中に登場したキャラクターを一覧にして掲示して下さり、
集計、発表をしてくださっているのは、関西組の元坂口さんなのです。
シタテルヒメなど古事記の神々をあっさりと差し置いて……『泉美木蘭』。
そう、古事記から逸脱してたびたび登場しては、とんでもない過去を自白する
わたし本人だったのです。
◎明らかに最強キャラクター。 ◎モクレンヒメのエピソードはもう神様を越えた!
◎神様に対抗できる唯一の存在。「現代のザ・神様!」泉美木蘭が登場する爆笑エピソードは鉄板!
自分の名の刻まれた楯をいただくとはーー!
そして、このクリスタル楯に刻み込まれているキャラクターは・・・
私が昨年末に描いて掲載した、ちっさいおっさん・スクナビコナ(実物大)。

な、なんだろうこの釈然としない感じ。
い、いや、たしかにものすごい存在感のある、嬉しい記念品なんだが。
とにかく新幹線でえっちらおっちら自宅まで持ち帰ることに。
◇ ◇ ◇

あれだけ重くてヒイコラだったのに、うちの部屋に置いた途端、
あまりの透明さに存在感を失ったちっさい薄いおっさん。
かなり重いし、しかも、鋭角に尖ってる。

移動して回るほど、家具の置き場に神経を使った。
なぜなら、アパートごと部屋がちょっと傾いているからだ。いまでも、ベッドの枕の
位置には気をつかう。足のほうが少し下がっているので、逆さまに寝ると、朝には
首の骨が詰まって背がちょっと縮んでいるのだ。ほんまやで。
その前に置けば、地震のときに倒壊のストッパーになるかも。
ピーターの胸元から、亡霊のようにちっさい薄いおっさんが立ち昇っている。
レコード大賞の記念品ぽい気がしないでもない。
地震のとき、CDだけだなら大したことないが、もしもこのちっさい薄いおっさんが
バランス崩してこっちに落下してきたら、私は、死ぬか、足の甲の骨を折る。
ちっさい薄いおっさんに、ベタベタと指紋がついてしまった。

とりあえず風呂に入れてみる。
なんの面白みもない写真になってしまい、わざわざお湯を張ったのが腹立たしい。
といっても、一緒に入浴している写真だけは公開できない。
この楯なにも隠してくれないから、あらぬものが惜しげもなく撮れてしまうし、
そんな写真撮ってる自分はけっこう笑えない。

バスタオルで身体を拭いてご満悦のちっさい薄いおっさん。
うちのあらゆる物がカラフルすぎるし、おっさんの顔がイラッとくる!!
無意味に寝かしつける。
ここなら、奥にむかって傾いているから、地震が来ても手前には倒れてきづらいかも。
さっきから地震、地震とうるさいけど、このアパート、まじめにとんでもなく揺れるのよ。

背景が透けてしまって、ちっさい薄いおっさんがまったく目立たないし、
文字なんか全然見えないから、これが記念楯であることすら主張してくれない。
ちっさい薄いおっさんよりも、奥の檀一雄のほうが前面に出てるじゃないか。

変わってしまった。でも、これはこれでかっこいいし、ウケも良さそう。
あ、そうだ。もっといいのがあった。

高森先生からいただいた、古事記の本を添えてみる。
どうよ、これ!?
うっすらだけど、ちっさい薄いおっさんが見えているし、
しかもおっさんの表情があまり前面にアピールしてこないから、
置いてあってもそんなにイラッとしないし、文字もまあ読めるし、
おまけに『古事記神代巻』、ぴったりじゃない?
無事、わが家に古事記神代巻の記念品が鎮座!
ありがとうございました。
自分をどう面白く書こうか、それを考えてる時間が一番楽しかったです。
そして、今年も、12月には読者企画『ザ・神様!キャラクターグランプリ』が
開催されるそうです。年末に向けて、ますますライジングをお楽しみに。