高森明勅

神器を巡る政府見解

高森明勅

皇室・皇統問題
2019年 3月 9日
5月1日の皇太子殿下のご即位と共に、
殿下(新天皇)は皇祖(こうそ=天照大神)を
祀(まつ)る伊勢の神宮のご神体(しんたい)
の神鏡(しんきょう)も、“同時に”受け継がれる。
 
この事実は、一般の人々には
些(いささ)か意外かも知れない。
しかし、神鏡についての政府見解は以下の通り。
「伊勢の神宮に奉祀(ほうし)されている
神鏡は皇祖が皇孫(こうそん=瓊瓊杵尊
〔ににぎのみこと〕)にお授けになった
八タ(尺+只)鏡(やたのかがみ)であって
…天皇が伊勢神宮に授けられたのではなく、
奉祀せしめられたのである。
この関係は、歴代を経て現代に及ぶのである。
したがって、皇室経済法第7条の規定にいう
『皇位とともに伝わるべき由緒ある物』として、
皇居内に奉安されている形代(かたしろ=ご分身)
の宝鏡(ほうきょう)とともにその御本体である
伊勢の神鏡も皇位とともに伝わるものと解すべきである」
(昭和35年10月22日、池田勇人内閣総理大臣の答弁書)
 
ここで神鏡に関して、
単に「皇室に“古くから”代々受け継がれ…」
といった抽象的な表現を採らず、
「皇祖から皇孫にお授けになった」と
具体的に述べているのは、甚だ注目に値する。
これは『古事記』『日本書紀』の神話に登場する、
天照大神が瓊瓊杵尊に神鏡を授けた場面を、
そのまま語っているからだ。
 
つまり戦後の政府も、
国家秩序の最も中枢に関わる部分で、
「神話」を肯定し、受け継いでいると言えよう。
 
その上で、「伊勢の神鏡も皇位とともに伝わるもの」
と明言している。
 
見落とされがちな事実と思われるので、
新天皇のご即位を控え、改めて紹介した。