高森明勅

旧宮家系男性“養子縁組”プランはやっぱり「門地による差別」

高森明勅

皇室・皇統問題
2022年 1月 31日

皇位の安定継承の先延ばしを企てる政府は
旧宮家系男性の「養子縁組」プランを皇族数の確保策の
一つとして持ち出した。

しかし、これは憲法が禁じた「門地(家柄)による差別」に該当する、
との批判が広がっている。

これに対して、保守系の憲法学者の百地章氏は、
有識者会議のヒアリングで「非常に難しい問題」
「法理論的には少しハードルがあるかもしれない」と、
それが無理筋であることを

率直に認めながら、旧宮家系男性は「“潜在的に”皇位継承権を持っておられる」
「一般国民とは“やや違った”立場にいらっしゃる方々であるから、
“特別な扱い”がなされても良いのではないか」との、
苦しい弁明を試みておられた(令和3年5月10日)。

しかし、それは皇室と国民の間に新しく“別の身分”を認めることを意味する。
だから、憲法(第14条第2項)が禁じた「貴族」制を創設するに等しい。
説得力を持たない議論と言わねばならない。

拙著『「女性天皇」の成立』(67~69ページ)でも
少し立ち入って批判した。

新しい釈明

同氏はその後、私の批判を受け入れて下さったのか、
それともご自身で無理を悟られたのか、とにかく、
前説は取り下げられたらしく、先頃、別の釈明を試みられた
(産経新聞1月21日付)。

新しい養子縁組プラン擁護論の根拠は2点。

その1は、

「もし国が旧宮家の方々に対してのみ特権を与えたりすれば
『門地による差別』に当たる(これは前説の撤回だろう―引用者)。
しかし皇室が特例として旧宮家から何人かの養子を迎えるのは、
憲法14条の例外と考えられないか」
というもの(少し自信が無さそう)。

しかしこれは、皇室が自ら“特例として”国民の間に
「門地による差別」を敢えて持ち込む(!)ことになる。
皇室の方々ご自身には憲法第1章が優先的に適用されるにしても、
それを根拠に同第3章が国民に保障している権利(ここでは平等権)を
侵害することまで許されると考えるのは、とても無理だし、
ハッキリ言えば危険な発想だろう。

合理的区別か、不当な差別か

その2は、

「憲法第1章の定める天皇制度を守り、皇室典範第1条にいう
『皇統に属する男系の男子』を確保するためとの理由で
旧宮家の男系男子を養子に迎えるのは『合理的区別』に当たり、
『差別』とはいえない」
というもの。

まず、2つの根拠が矛盾していることに、
ご本人に気付いておられるのか、どうか。

「国が」後者の制度を設けることは
「旧宮家の方々に対してのみ特権を与え」ることになるから、
前者の意見がもし正しければ「『門地による差別』に当たる」
と自ら認めておられることになる。

更に「合理的区別」は、これまで判例や学説が積み重ねられて来たように、
それが“真にやむを得ない”ものに限られ、制度の“目的と手段の適合性”も
厳しく審査されなければ、“国民平等”の原則が骨抜きになってしまう。

この場合、憲法に抵触しないで「世襲」制を維持する方策が他にあり得る
(=“真にやむを得ない”と言えない)一方、養子縁組プランでは
(有識者会議の報告書も認める通り)皇位の安定継承が望み難く、
世襲制の維持を保障しない(=“目的と手段の適合性”を欠く)以上、
「合理的区別」の不当な拡大適用と見なさざるを得ない。

よって、百地氏の新見解も、残念ながら以前の説明と同じく、
無理な立論という結論になる。
その後の政府側の説明の仕方(と言うより正確には無回答ぶり)を見ても、
今のところ百地氏のロジックを採用する気配はなさそうだ。

追記

「プレジデントオンライン」での拙稿公開は1月29日だった。
間違った告知をしてしまい、申し訳ない。
この記事は同日、Yahoo!にもアップされている。

https://president.jp/articles/-/54076

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