高森明勅

故·安倍元首相が語った「なぜ男系を維持すべきか」

高森明勅

皇室・皇統問題
2024年 4月 18日

故·安倍晋三元首相は生前、皇位の男系継承を
今後も維持しなければならない理由について、
以下のように語っていたという(谷口智彦氏『日本の息吹』
令和5年9月号)。

「男系染色体がね、父から息子に綿々とつづく男系染色体がね、
それ自体がね、とうとい(尊い)んじゃないんだね。
父、息子っていう流れをね、なんとしても絶やさないようにって、
昔から営々と、たくさんの人が努力してきたんだからね。
それだよね、エライ(偉い)のは」

この発言の前段を見ると、男系限定(優先?)論者の1人で、
自ら安倍政権のブレーンを名乗っていた八木秀次氏が
しきりに唱えていた「神武天皇のY染色体」論に対して、
安倍氏もさすがにそのまま同調できなかったことが分かる。

一方、後段は同じく男系論者の百地章氏の主張を踏また発言だろう。
例えば武烈天皇の後、皇統断絶の危機があったものの、
当時の人々の“男系維持”の為の「努力」によって、
遥かな傍系だった継体天皇の即位を実現し、首尾よく断絶を
免れることが出来たという、当時の史実そのものとは
かけ離れた一種の“講談”的な歴史理解だ。

しかし継体天皇のお子様のうち、『日本書紀』に「嫡子」
と明記され、現代まで血統を伝えているのは、それまでの
皇統の直系に繋がる手白香皇女から生まれた
(即ち女系で嫡子とされた)欽明天皇“だけ”だ。

但し安倍氏が見落としていたのは、こうした史実のデティール以上に、
男系維持の最大の支えは側室制度だったというシンプルな事実だ。

更に、シナ男系主義に由来する(父から息子にという流れだけ❲!❳
で受け継がれると考えられた)「姓」の観念が長年、
男系限定を強く動機付けて来たという事実だ。

しかし、そのような「姓」の制度は既に廃止されたし、
観念としても社会を呪縛する力をとっくに失っている。

皇統は父から息子にだけでなく、親から子へと受け継がれ得る。
にも拘らず、側室不在かつ少子化という条件下で「男系男子」限定に
固執すれば、それこそ皇統断絶の危機に直結する。

もし皇統を「なんとしても絶やさないようにって」
本気で願うのであれば、目の前に迫る危機を乗り越える努力を
惜しんではならないし、その為に先ず必要なのは
男系男子限定という無理なルールを速やかに見直すことのはずだ。

安倍氏は残念ながら、後世から「エライ」と言われるのとは丁度、
正反対の方向に進もうとしていたように見える。

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