高森明勅

不思議だった「譲位」否定論

高森明勅

2017年 3月 31日

今となっては不思議だ。

しかし、「譲位を可能にすると世襲制と矛盾する」
という論理が確かにあった。

占領下に今の皇室典範の作成に携わった、
法制局次長の井手成三や宮内省文書課長の高尾亮一らの主張だ。

これは当時、昭和天皇の戦争責任を問う声があり、
退位論まで取り沙汰された特殊な事情を勘案すべきだろう。

無理な論理でも、退位の可能性を一切、制度上排除する、
政治的な必要性に迫られていた。

ところが、この度の天皇陛下のご譲位を巡る流れの中でも、
そうした論理をそのまま援用する論者がいた。

しかし、世界中の君主国で退位を認める例はいくらでもある。

それら国で、退位が世襲制と矛盾するという反対論は存在するのか。

更に退位を認めることで、
実際に世襲制を揺るがす事態を
招いているのか。

どうして我が国だけそうした主張が成り立つのか。

そもそも譲位を可能にするなら、
しかるべきルール(
要件と手続き)を設けるのが当然。

そのルールの中身にも立ち入らず、
いたずらに否定論を振り回すのは、
井手らのような特殊事情があるならともかく、
不思議な話だった。

もう過去形だが。