不可能を可能にした奇跡の書~プレイバック『戦争論』インタビュー⑤
(byよしりん企画・トッキー)
『戦争論』が出てから20回目の終戦記念日。
今日もプレイバックインタビューをお届けします!
孫と祖父が一つの感覚を共有
読者層で一番多いのは飛び抜けて二十代ですね。
「戦争論」の読者のアンケート葉書がめちゃくちゃたくさん返ってくるんですが、年齢層を全部種分けして調査してみたら、だいたい二十代が圧倒的に多くて、その次は三十代が多いですね。
以前は二十代、三十代、十代の順だったんですが、最近は四十代がどんどん増えてきて、十代を抜きましたね。
だから、今、二十代、三十代、四十代、十代、それで五十代、六十代、七十代、八十代というカウント値にあるんですけれども、七十代、八十代の人口は少ないですから、比率的にいけば七十代、八十代の人は、五十代、六十代の人よりも多いでしょうね。
一番嬉しかったのは、戦争を体験した世代の人達がたくさん読者になっていることです。
せいぜい「のらくろ」ぐらいしか漫画といったら読んだことがない世代でしょうから、全然漫画を読み慣れてない。
だから読む順番すら分からず「右から左にこう読むわけですね」みたいな、そんな反応が返ってくる感じですよね。
しかも、「戦争論」って字が多いし、結構時間かかるんですよね。
だから、それこそ老眼鏡を使いながら懸命に読まないといけない漫画という、普段彼等にとっては慣れないジャンルなんだけれども、「初めて漫画というものを見た、孫から勧められて読んでみたのだが、当時の自分達の思いがなんで戦後生まれの貴兄に分かるのか分からない」という感じの手紙を沢山頂きます。
その世代の人々も刺激を受けているようで、それが凄く嬉しかったですね。
本来漫画を読まないまま死んでしまうような人達が漫画を読んでくれた。
なおかつ、わしは本を出す前は少し不安でした。
ひょっとしたらまだ戦後民主主義の中に育った自分の感覚だけで描いてて、祖父の世代に対してすごく僣越なことを描いているかもしれないという気持ちがあり、ちょっと怖かったんだけども、それが凄く感謝されるような状態になっちゃったから、これは本当に描いてよかったと思っています。
それともう一つは、その人達が子供に読ませたい孫に読ませたいと言って、実際子供や孫が読んで、それでなおかつ凄く感激してくれた、感動してくれたという話になってくるし、今度は逆に孫が最初に読んだら、これを戦争を体験した自分の祖父、祖母に読ませてみようと思うわけですよ。
そしたら、そこで孫に勧められて読んだけど、凄く感激したという話になっちゃうわけです。
わしは歴史が戦前と戦後で断絶してしまっているが故に、世代間も断絶してしまっているという人間関係が凄く良くないのではと思っていましたから、それがこの本によって戦前と戦後の感覚が共有されて、孫が自分の祖父、祖母のことが凄く分かる、尊敬できるというふうに思えるようになったり、自分の思いが孫に伝わったと思って凄く満ち足りた気持ちになってくれたり、二世代で一つの感覚が共有できるという現象がかなりの規模にわたって引き起こせたことが、凄く自分としては満足ですね。
(「翼」平成11年1月号)
「戦争体験を語り継ぐ」なんてよく言うけれど、自分が経験してもいないことを、世代も違って感覚も全く異なる人間が「語り継ぐ」なんてことは極めて困難、というか普通は不可能です。
『戦争論』は、不可能を可能にした奇跡の書だったわけで、当時、戦場体験者から寄せられた「これこそが当時の自分たちの思いだ」というアンケート葉書は、貴重な財産として保存しとかないといかんなあと思います。