クマラスワミ報告書、事実関係を争わず
村山談話・河野談話に未来はあるか?
第73回 クマラスワミ報告書、事実関係を争わず
なぜ日本政府は、一度は国連人権委に提出した反論書を
すぐ撤回してしまったのか?
真相は明らかにされていないので推測するしかないが、
大体察しはつく。
国連人権委では毎回100以上の決議案が次々提出され、
採択されていく。
クマラスワミ報告もそのうちの1本であった。
しかも実はクマラスワミ報告書の本文は「家庭内暴力」
に関する報告と分析であり、日本の慰安婦に関する
報告書は「付属文書1」として付け加えられたもの
だったのである。
採択の際には、以下の4つのランクで評価が示される。
1「賞賛」(commend)
2「歓迎」(welcome)
3「評価しつつ留意」(take note with appreciation)
4「留意」(take note)
よっぽどひどければ採択されずに「否認」(reject)に
なることもありうるが、それは滅多にない。
日本政府は当初、この「reject」を求めながら、
撤回したのである。
そしてクマラスワミ報告書は、最低ランクの「留意」
(take note)の評価となった。
否認はしないが積極的評価はできない。
そういう報告があったと「聞き置く」という程度の
意味である。
さすがに各国代表も、慰安婦に関する報告書のひどさは
認識したのだろう。
だが一方で「家庭内暴力」に関する報告書本文の評価は
高く、国連人権委としても、自分たちが任命した
クマラスワミを過度に傷つけたくはなかった。
そもそも国連人権委が委嘱して作らせた報告書を
国連人権委が否認しては、国連のメンツにも関わる。
そんなわけで、評価を最低ランクの「留意」にとどめるから、
日本政府は「否認」の要求を取り下げてくれないか
という、裏取引が行われたのではないか。
原則を曲げて、なあなあの「落とし所」で手を打とうと
いうのが、「河野談話」の作成過程でも見られた日本政府
おなじみの行動パターンだから、おそらくここでも
似たようなことが行われたのだろう。
だが、これによって「日本政府はクマラスワミ報告書の
事実関係については一切争わなかった」という事例が
残ってしまった。
これによって、日本政府は国際社会において、
クマラスワミ報告書に書かれたことは事実であると認めた
のも同然となってしまったのである。