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2013.07.17(水)

母がガンで余命半年を宣告された。

 

母がガンで余命半年を宣告された。

本来なら直ちに帰省して、母の手を取り、同情してみせるのが常識なのだろう。

親戚関係は次々に母の病室を訪れ、「よしのりはなぜ帰ってこないのか?」
文句が出ているらしい。

だが締め切りがあるから帰れない。

わしが描かなければ、「SAPIO」の『大東亜論』の締め切りにも間に合わないし、
『AKB論』の締め切りにも間に合わない。

毎週火曜配信のブロマガ『小林よしのりライジング』の締め切りにも間に合わない。

すでに決定していた対談その他の仕事も、キャンセルは出来ない。

どうしようもない。

そもそも80歳過ぎてガンなら、寿命だと思うしかない。

余命半年なら、まだ何度か福岡に帰って、母の顔を見る余裕はある。

わしはそう考えるが、親戚は今帰ってこなければ「親不孝」と思っているようだ。

世間は、締め切りがある漫画家の生活がどんなものなのか、
恐らく見当もつかないのだ。

サラリーマンなら夕方には仕事が終わるとか、休日があるとか、
有給休暇があるとか、余裕というものがあるのだろう。

だが漫画家はそうはいかない。

朝起きてすぐ描き始め、夜12時くらいまで、ずっと描き続けている。

その間、テレビやDVDや音楽はつけっぱなしだから、
まるで遊んでるように見えるかもしれないが、ちゃんとペンは走らせている。

漫画家はそういう仕事なのだ。

父の最期も看取れなかったが、母の最期も多分、看取ることは出来ないだろう。

福岡に妹がいて、母の姉妹もいる。彼女たちに任せるしかない。

仕方がないではないか。

そもそも喘息の原因は依頼心だと決めつけ、わしを小学生の時にプレハブに
放り込んで、徹底的に個人主義の教育を施してきたのは、母である。

父からは弱者への眼差しと公共心を学び、
母からは個人主義と快楽主義を学んだ。

わしが自ら学んだものは、仕事に対する情熱と執念である。

これだけは両親にはないものだった。