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おーっと、フル・タッチ!(光文社/単行本)第1巻

プロレス全盛期、実況アナとして活躍していた古館伊知郎を主人公に描かれた、漫画界唯一(!?)の「プロレス実況漫画」!!古館伊知郎、小林よしのり、両者のプロレスに対する並々ならぬ情熱が込められた異色作品。当時、プロレスに嵌りまくっていた小林よしのりが、「古館氏に会ってプロレス界のウラ話を聞きたい」という若干の(?)下心でもってスタートした企画。創作の原点「好きだから描く」という初期衝動が詰まった“熱い”作品。

 

 

1巻(198412月発行)

Vol.1 標的、見つけたり!

Vol.2 アントニオがお好き

Vol.3 炎の飛龍・藤波辰巳

Vol.4 アンドレなんか大嫌い!

Vol.5 いざ、栄光の独立戦士

Vol.6 アウトロー・長州力

Vol.7 プロレスの門

Vol.8 一難去って、また一難

YOSHINORI VOICE

 

「『おーっと、フル・タッチ!』

貴重なる、時代と熱狂と創作衝動の記録」(byよしりん企画・トッキー)

 

漫画宝庫「フル・タッチ」1

 

 この作品は「ジャストコミック」昭和59年(1984)5月号から12月号まで連載、単行本全1巻が発行されました(単行本は「Part.1」となっていますが、続刊はありません)。同誌でノリまくって連載していたお気に入りの作品『タコちゃん・ザ・グレート』を終了させ、その最終回と同じ号にこの第1回を掲載するという、並々ならぬ意欲を感じさせる異例のスタートでした。ところが後に本人がこの作品について語ったことは「後悔」ばかり。例えば「月刊カドカワ」平成6年(1994)10月号の「本人自身による全作品解説」では、

「プロレス熱が高じてしまって、古舘伊知郎に会ってプロレスのことをいちいち聞くだけのために迂闊にも描いてしまった。今となっては、反省してる。惜しい時間を使ってしまった」

 という具合です。

 1980年代前半、アントニオ猪木率いる「新日本プロレス」は空前の大ブームを起こし、毎週金曜夜8時に放送されていた実況中継『ワールドプロレスリング』は強力な番組が競合する激戦の時間帯に、毎週25%以上の高視聴率を記録していました。

 この実況で脚光を浴びたのが、当時テレビ朝日アナウンサーだった古舘伊知郎氏でした。古舘氏は「おーっと!」の絶叫や、これまでの実況アナの常識を覆した、感性で言葉を選んで臨場感を表現するスタイルで大いに新日本プロレスを盛り上げ、本人もタレントとして注目され始めていました。

 そしてこの頃、よしりん先生は熱狂的な新日本プロレスのファンで、大きな試合があると地方へも観戦に行っていました。それはもう熱に浮かされ、のぼせまくった状態だったそうで、古舘氏に会ってウラ話が聞きたいという、ただそれだけのためにこの作品を描いたのだそうです。

 

漫画宝庫『フル・タッチ』2

 この作品の著者名は「作・古舘伊知郎 画・小林よしのり」となっており、よしりん先生唯一の「原作つき」ということになっています。ただし製作の際は古舘氏が原作を執筆するのではなく、よしりん先生が毎回古舘氏から話を聞き、それを脚色して漫画にするという方法をとっていました。

 連載は新日本プロレスブームの最高潮となる長州力藤波辰巳の抗争の勃発シーンから始まり、古舘氏から見たアントニオ猪木を始めとするプロレスラーたちの姿や、当時のリアルタイムの出来事が描かれていきます。

 ただし古舘氏はああ見えて相当に口の堅い人で、期待していたような誰も知らないウラ話はほとんど聞けず仕舞いだったそうです。実際に『おーっと、フル・タッチ』に描かれたエピソードも、先に刊行されていた古舘氏の著書『過激でどーもすいません』で語っていたことや、プロレスファンなら知っているようなことが多く、これを面白く漫画化するのには相当に苦心したようです。プロレスラーたちは基本的にシリアスに描写しているため、ギャグを入れられるキャラが古舘氏しかなく、果ては古舘氏が猪木のパンツを被ってニオイを嗅ぐシーンや、オ●ニーをするシーンまで描いたりしているのですが、それをOKした古舘氏も大したものです。

 この漫画が連載された1984年は、新日本プロレスの人気が陰りを見せる転機となった年でした。年に1度の大一番だった「IWGP優勝戦」では納得のいかない結末に観客が暴動を起こす前代未聞の事態となり、秋には突如、長州力以下選手が大量離脱してしまいます。そしてよしりん先生も「『おーっと、フル・タッチ』の執筆から離脱する」として連載を終了させたのでした。

 単行本巻末には国友やすゆき氏が引き継いだ『おーっと、フル・タッチ』Part2が連載中という広告が載っていますが、これは古舘氏監修の『スープレックス山田君』というプロレス漫画に移行しました。

 

漫画宝庫『フル・タッチ』3

 

 それから29年経って読み返してみると、これは実に貴重な時代の記録だと感じます。

 新日本プロレス絶頂期の最後の熱気が封じ込まれており、その中に少しだけ描かれている猪木の「狂気」は、その後の猪木を思うと実に意味深なものがあったのだと思わされます。

 また、古舘氏がテレビ朝日を退職してフリーになる様子が描かれ、そこで古舘氏は当時人気だったフリーアナウンサーの久米宏や森本毅郎と自分を比べ、彼らを正統派の「正規軍」、自らを「維新軍」に見立て、「アウトローとして悪に徹してヤツらを超えてやるんだ!!」と叫んでいます。それが今では久米宏の後を受けた「報道ステーション」のキャスターなのですから、時代の流れの不思議を感じずにはいられません。

 そして何より貴重なのは、これはよしりん先生自身の「好き!!」の衝動の記録であるということです。後先何も考えず、とにかく好きだから描く、それだけ!! という態度はいっそ清々しく、好きだからこその熱と勢いを楽しむことができる作品です。

 

 いま、よしりん先生はAKBグループのコンサートで見たいものがあれば、地方にまでも飛んでいます。本人もこんなにハマったものはプロレス以来と語っており、まさにあの時の熱狂が再来しているのです。

 そして今年還暦を迎えるよしりん先生は、創作の原点である「好きだから描く!」という「初期衝動」を大事にするという姿勢に立ち還り、『AKB48論』を執筆している真っ最中です。売れるかどうかといった計算などはあえて考えない、描きたいから描く! というのです。

 しかもキャリアを積んだ分、今度は「好き」の暴走で「後悔」を残すような描き方はしていません。知っている人にも知らない人にも楽しめる「論」としてのAKB48を描き尽しています。どうぞご期待下さい!

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