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2016.05.04(水)

田中角栄の流行から考える

 

石原慎太郎の小説が売れて、田中角栄が再び
脚光を浴びている。
角栄が総理になったときは国会中継で見ていたのだが、
わしはそのとき19歳、大学生で、学歴がないのにトップに
上り詰めた男として、大いに興味を持ったものだ。

あまりに印象の強い政治家だったから、わしも
『角栄生きる』という漫画を描いたことがある。
呉智英氏に好評をいただいたものだ。 

そのときベストセラーになったのが『日本列島改造論』で、
大規模な財政出動で、公共事業をやっていく、その目玉
になったのが新幹線を列島に通すという事業だった。
土建屋出身らしい発想だったが、最近言われる
「国土強靭化」というものの元祖だろう。

確かに新幹線ができて便利になったが、そのせいで
人口が都市に集中し、地方都市が「ミニ東京化」して、
地方の郷土の特殊性はずいぶん失われた。
日本の風景を変えてしまったのだ。
それをよしとするか?保守としては疑問を感じざるを得ない。 

なんにしても、団塊の世代を中心に人口が増え続け、
消費が伸びる高度経済成長という時代だったからこそ、
採用できた政策である。
人口が減り続ける時代に、ハコモノ公共事業こそが
景気浮揚になると考えるのは、利権が絡んでいる勢力が
いるからに違いない。
三陸の海が見えなくなる防潮堤に巨額のカネを注ぎ込んでも、
人々の暮らしの役には立たないどころか、おそらく漁村は
衰退する一方だろう。

民主党が「官から民」と言って、新自由主義を加速し、
あらゆる公共事業を見直すと言っていたときは、わしは
「わしズム」で紺野典子さんを登用して、財政出動で
公共投資が必要だと書いてもらっていた。

安倍政権になって、アベノミクスの3本の矢のうち、
第一の矢が「金融緩和」で、これは「トリクルダウン」が
起こるという錯誤を前提にしていたから、予想通り失敗した。

2の矢は財政出動で、国債を発行して捻出したカネで
藤井聡が主張する「国土強靭化」を進めたのだろう。
これ自体は良いことだ。古くなった道路や橋の修繕は
必要だし、震災に備えた建物の補強は必要である。
だが、「人手不足」で雇用の創出にはなり得ていないし、
やはり利権が絡んで無駄な公共事業にカネを
注ぎ込んでいる。
「公共事業」の認識がわしとは違うようだ。 

3の矢が構造改革で、規制緩和してイノベーションを
生み出すということだが、これは失敗する。
流動化した雇用を吸収できるイノベーションなんか
生まれないからだ。

今、田中角栄が人気なのも、アベノミクスと言うが、
結局は財政出動しかやってないじゃないかという思いが
あるからかもしれない。
だがそれとて国債のほとんどは国内で消化しているの
だからと言って、巨額の負債を子孫に先送りしていけば
いいのかどうか、分からない。
あくまでも「国家の信用性」に依存しているが、
その信用性がいつまでもつのか分からない状況だ。

すべては「国民の活力」が失われていることに真因がある。
田中角栄を懐かしがっていたってしょうがない。
今、日本だけでなく、世界が向き合っている状況は、
資本主義そのものの限界である。
第三次世界大戦が起こるしか、これを突破する道はないの
かもしれないし、それを画策する勢力がすでにいるのかも
しれない。
その不穏さを察知して、国民は護憲派に転向しているの
かもしれないのだ。
それもまた「活力の喪失」以外の何ものでもないから、
わしはバランスを取った経済戦略や、憲法改正を含む
国防のあり方を考えている。

そしてなにより、皇位継承問題を解決し、皇室の安泰を
保証することによって、国家の永続に希望を持たせることが
大事だと考え、女系公認、直系重視を訴えている。
そういうもろもろの国家の問題を解決する突破口として、
女性の地位向上、子育てこそを「公共事業」として捉える
意識を育てようと思う。